「正しいベトナム語を身につけるには、自力文団を読むといい」
ベトナムで暮らしていた頃、近所に住む詩人からそう勧められたことが、田中あきさんの研究の出発点でした。
手渡されたのは、1930年〜40年代のベトナムで活躍した文学者グループ、自力文団のメンバーが書いた数冊の小説でした。
読み進めるうちに、それまで知らなかったベトナムの社会や人々の暮らし、女性や若者たちの心の動きが見えてきます。シンプルなベトナム語で書かれた物語の向こうに、歴史の教科書では出会えない世界が広がっていました。
その面白さに夢中になった田中さんは、ゆえあってベトナムで社会人として働いていた生活から方向転換し、大学へ編入学します。自力文団の文学を研究するためでした。
研究を始めると、思いがけない出来事がありました。
自力文団を紹介するウェブサイトに片っ端から連絡を取ったところ、アメリカ・南カリフォルニアのリトルサイゴンで開かれるシンポジウムに招待されたのです。そこで田中さんは、自力文団の主要メンバーの子孫の多くがアメリカで暮らしていることを知ります。
さらに現地では、かつてサイゴンで活動していた元詩人から、手作りで復元された一冊の文芸誌を譲り受けました。それは、自力文団の作家カイ・フンを特集した号でした。
そこには、サイゴン陥落後に焚書や流通禁止によって失われた南ベトナムで刊行されていた文学を、何とか残そうとする人々の想いが込められていました。
研究の舞台はベトナム国内だけではありません。
失われた文学を追ううちに、調査先はアメリカやヨーロッパへも広がっていきました。
現在はベトナム語文学を専門とする一方で、東南アジア11か国を担当し、図書館資料の整備や研究者同士をつなぐ企画にも携わっています。
田中さんが追いかけているのは、単なる小説ではありません。
歴史のなかで忘れ去られたり、消されたりした文学作品が、どのように扱われてきたのか。そこには、どのような景色や心情が描かれているのか。その物語をたどり続けています。
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※座談会・ワークショップ等からの発言引用
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※論文紹介
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※「アジアへの扉」への質問への回答
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